車田先生の日々是世界史 第15回「『キリスト教』の母体となった『ユダヤ教』の成立」
皆さん,久々のブログ更新です。前回の更新からかなり長い時間が過ぎてしまい申し訳ありません。
この間に歴史的には色んな事が起こりました。
ロシアとウクライナの戦争は,まだ終結せずに長期化しそうな雰囲気です。ソ連最後の指導者であったゴルバチョフ氏も亡くなりました。
イギリスでは女王エリザベス2世が在位70年の生涯を終えました。また,ジョンソン首相が辞任した後,トラス首相がわずか45日で辞任してスナク首相が就任しました。
日本でも安倍晋三元首相が殺害されたり,急速な円安が進んだり,混沌とした情勢が続いています。
さて,今回から世界の主な宗教の成立に関して,しばらくの間綴っていきたいと思います。
宗教と政治は歴史上切っても切れない関係です。日本は表面的に政教分離を憲法で掲げていますが,実際には政治に宗教が関係していますし,人間が生きていく上で必ず宗教は関係しています。
今回は,世界三大宗教の「キリスト教」の母体となった「ユダヤ教」の成立について綴っていきます。
「ユダヤ教」は,「ユダヤ人」の間で信仰されている民族宗教です。
では,「ユダヤ人」とは何なのでしょうか?
一般的な定義としては「ユダヤ教」を信仰する者を「ユダヤ人」としています。「ユダヤ法規」では,ユダヤ人の母親から生まれた者,もしくはラビ(ユダヤ教の聖職者)のもとでユダヤ教に改宗した者としています。
自称「イスラエル人」,他民族からは「ヘブライ人」と呼ばれ,紀元前6世紀の「バビロン捕囚」以降に「ユダヤ人(ユダ族を中心とする一族)」と呼ばれるようになりました。「ユダヤ教」は「ユダヤ人」の歴史とともに教義が確立されていきました。
「ユダヤ人」は,紀元前1500年頃にメソポタミアからパレスチナの地に移住して定着しました。その後,一部の「ユダヤ人」は,前14世紀にエジプト新王国に移住したのですが,迫害を受けたために紀元前13世紀にエジプトからの脱出を試みます。
『旧約聖書』に記述されている「出エジプト」ですね。前1250年頃,預言者モーセに率いられてエジプト新王国を脱出すると,途中,紅海を渡りシナイ山で「ヤハウェ」の神よりモーセに「十戒」が授けられました。「ヤハウェ」が理想の地であると約束した「カナーン(現在のパレスチナとほぼ一致する)」の地を目前にモーセは亡くなってしまいます。
1956年に制作された映画「十戒」を見てみるとよいですよ。ただ上映時間が長いですが…。こうした苦難の歴史を経験した「ユダヤ人」は,「ヤハウェ」を唯一神として信仰するようになり,「十戒」はユダヤ教の律法の基礎となりました。
前1000年頃,「ユダヤ人」は.サウル王の下にヘブライ統一王国をパレスチナに建国すると,2代ダヴィデ王・3代ソロモン王の下で全盛期を迎えました。
ダヴィデは,もともと無名の羊飼いの少年だったのですが,優れた武勇伝の巨人ゴリアテを倒したことでサウル王の目に留まり寵愛を受けるようになって,ついには王女と結婚し2代目の王となりました。ダヴィデ王は,領土の拡大に成功して都をイェルサレムに定めました。その息子であったソロモンが3代王となると,知恵に優れたソロモン王は,行政・軍隊・税制を整備して専制支配体制を確立しました。
また,イェルサレムに「ヤハウェ」の神殿を建設し,「ソロモンの栄華」と言われる全盛期を築いたのです。この時に建設された伝説の神殿城壁が,「嘆きの壁」として現在「ユダヤ教」の聖地となっているのです。
専制支配を強化したことは,次第に民衆の不満を高めることになり,ダヴィデ王の死後,各地で反乱が起こった結果,ヘブライ統一王国は前922年頃に南の「ユダ王国」と北の「イスラエル王国」に分裂し,衰退することになったのです。
「イスラエル王国」が,前722年,後にオリエント世界を初めて統一することになるアッシリア王国によって滅ぼされると,前586年には「ユダ王国」も新バビロニア王国よって滅ぼされてしまいました。「ユダ王国」滅亡後,「ユダヤ人」に受難の歴史が待ち受けました。「ユダヤ人」は,新バビロニア国王ネブカドネザル2世によって新バビロニア王国の都バビロンに強制移住させられた「バビロン捕囚」を約50年にわたって受けました。
前538年,アケメネス朝ペルシア王キュロス2世が,新バビロニア王国を滅ぼすと,バビロンに囚われていた「ユダヤ人」は「バビロン捕囚」から解放されて帰国が許されたのです。
帰国した「ユダヤ人」は,イェルサレムに「ヤハウェ」の神殿を再建して「ユダヤ教」の教義を確立させました。こうした背景から「ユダヤ教」の教義には,ペルシア人が信仰していた「ゾロアスター教」に影響を受けているものがあります。「救世主(メシア)思想」や「最後の審判」などです。
それでは,「ユダヤ教」の教義の特徴とはどういうところにあるのでしょうか?
「ユダヤ教」は,一神教で唯一神「ヤハウェ」への信仰以外は決して認めません。
また,律法主義も特徴の一つです。
「律法」とは,紀元前1世紀までに編纂された「ユダヤ教」の経典『旧約聖書』の「モーセ5書」(「創世記」・「出エジプト記」など)の「ユダヤ人」が守るべき「律法」で天地創造からの民族史のことです。ヘブライ語で「トーラー」と呼びます。
『旧約聖書』には,「律法」の他に「預言(ネヴィーム)」・「諸書(ケトゥヴィーム)」があり,「預言」は,「歴史書」(「ヨシュア記」・「列王記」など)と「預言書」(「イザヤ書」・「エレミア書」など)で構成されます。
「諸書」は,「律法」や「預言」に比べると一段価値が低いものとされていて,「律法」・「預言」以外で『旧約聖書』に記されている書のことを指します。
さらに,「ユダヤ教」の特徴として「選民思想」や「救世主(メシア)思想」があります。
「選民思想」とは,「ヤハウェ」が「ユダヤ人」のみを救済するとした思想で,「ユダヤ人」以外の民族からすると排他的であると見做されて,「ユダヤ人」が迫害された理由の一つです。
「救世主(メシア)思想」は,「ユダヤ人」が受難にある状況下に「ヤハウェ」が「救世主(メシア)」を遣わして,「ユダヤ人」を救ってくれるという思想です。
特にパレスチナがローマの属州支配下になると,「ユダヤ人」の間に「救世主」待望論が高まってきました。こうした状況の中で「イエス」が登場してきます。
その他,『旧約聖書』によってタブーとされている事として,豚肉・エビ・カニは食用禁止とされています。その理由として,清浄なものを食べるべきであるという考えがあり,魚も鱗と鰭があるもの以外は食用禁止とされています。
さて,今回は「ユダヤ教」の成立について綴ってみましたが,いかがだったでしょうか?次回は,「キリスト教」の成立について綴ってみたいと思います。
この記事を書いた人:車田恭一
30年以上にわたり教壇に立ち、都内私立高校、河合塾、Z会東大マスター、東進ハイスクール、早稲田塾、早稲田ゼミナールなど大手予備校で世界史を担当。当塾のブログで、タイムリーな話題と歴史的な出来事を絡めて綴った「車田先生の日々是世界史」を執筆中。